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しなやかな組織づくり~次世代の経営・マネジメント~ 第2弾

優秀な通訳者の「意訳」

先日、通訳の方とお話する機会がありました。その方は、あるプロスポーツの外国人監督の通訳を長年経験されてきた方です。私はお話を通して、「これは優秀なマネージャーのマネジメントと同じことが言えるなぁ」と思いました。今回はそのご紹介をしたいと思います。
皆さんは、プロスポーツ監督の通訳の仕事は「外国人監督の言葉を正しく速やかに伝えること」だと思いませんか?少なくとも私はそう思っていました。しかし今回の通訳の方のお話を通して見事に覆りました。その象徴的なお話が以下です。

外国人監督とは南米の方でした。各国にはそれぞれお国柄がありますが、南米の方は情熱的で熱くなる傾向があるともいわれます。その監督も例外ではなく、喜怒哀楽がとても表に(表情や言葉、態度)出やすい方だったそうです。そんな監督が試合中にある選手に向かって大声で叫んだそうです。

「バカヤロー!!○○!!何やってんだ!さぼるな!そんなプレイするくらいなら死んじまえ!もうお前は二度と使わないぞ!」
・・・まぁ日本語に直訳すればそんな激しい口調で、今であればパワハラだと言われそうなセリフでした。しかし、通訳の方は監督に罵声を浴びせられた選手に向かって(もちろん選手は監督の言葉がわかりませんので通訳の顔を見るわけです)

「○○!いいぞ、お前がもっと運動量を増やせば、ゲームはこっちのもんだ!って言ってるぞ!」
と声をかけたのだそうです。

プロとして選手やチームの目的は当然ながら試合に勝つことです。監督はその目的を達成するためのいわば目標・手段として戦術を伝え、ゲーム中も大声で指示を出すわけです。今回のシーンにおける指示は、当該選手の運動量を増やしてゲームの流れを引き込むことがねらいだったようです。要は○○という選手がもっと走ればいいわけです。監督の意図を汲み取った通訳者は、結果上記のような意訳をして「当該選手を走らせるための最も適切な言葉」を伝えたというわけです。

ただ、この話は表に出ているほど単純なものではなく、重要な背景があります。通訳者は日頃のコミュニケーションを通じて監督の性格も、今回罵声を浴びせられた選手の性格もよく知っていましたし、より深く知ろうとしていたそうです。仲が良くなるためではありません。(もちろん選手同士、監督とも仲が良いことに越したことはないのですが)その方が目的を達成しやすいからです。誉められて伸びる選手もいれば、叱った方が伸びる選手もいます。情熱によって奮起する選手もいれば、理屈によって納得する選手もいます。監督とも選手とも普段からコミュニケーションをよくとったうえで、監督の言葉だけではなくその意図を汲み取り、状況や選手の性格に応じて、「意図」を伝えていたというワケです。

私も自問自答してしまいましたが、マネジメントにおいても同じことが言えないでしょうか。経営層や上位層の指示や言葉をそのまま部下へ伝えてしまってはいないでしょうか。ましてや自分自身も納得しないままに、「上が言っているから」などと部下へ指示を出してしまっていてはマネジメントの意味がありません。

組織の方向性や方針をしっかり理解したうえで、指示に対して言葉そのものではなく、意図をきちんとつかみ取ること。また同様に重要なのが、普段のコミュニケーションによって周囲に関係性をもつ人々の立場や性格や特徴などを知っておくことだといえるでしょう。私たちもそれぞれの仕事においてはプロなのですから。

著:日本能率協会 KAIKAプロジェクト室 山崎賢司

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